生命保険金による代償分割は贈与税に注意!

2015年相続税法改正により、基礎控除の引下げなどの改正がなされたため、相続税の課税ベースが広がったといわれています。

そこで生命保険金を使った相続税の節税対策が色々検討されています。


生命保険金を遺産分割の方法の一つである代償分割と組み合わせたとき、場合によっては贈与税が課税されるおそれがあります。

その仕組みと対策を解説します。

代償分割

代償分割とは

共同相続人又は包括受遺者のうち一人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対し債務を負担する分割の方法をいいます。

代償分割が遺産分割の方法として認められているのは、取得した相続財産と支給する代償金の額が等価である場合には、代償金の支給を受ける相続人は、現物の遺産の代わりにこれと同額の金銭を取得しているものといえ、経済的にみれば、現物の価値が分割されているのと同視できるからです。

なお、家事事件手続法第195条に「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」と規定されております。また同条の「特別の事情」とは、相続財産の現物の分割が不可能又はその財産の経済的価値を著しく損なうときに、相続財産の評価額について特に争いがなく、かつ共同相続人間で代償分割の方法による分割について争いがない場合をいいます。

代償分割と相続税・贈与税

代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算はどのように行われるのか?

代書分割の個々の譲渡行為について着目すると、それは代償分割をする相続人からその交付を受ける他方の相続人への有償譲渡がなされていることになります。しかしながら、代償分割は遺産分割の分割方法として認められていることからすると(家事事件手続法第195条参照)、個々の代償金支給行為は、遺産分割の達成を目的とする共同相続人間で相続財産の清算行為の一環であるといえ、全体的にみると、遺産分割行為の一部であると認められます。

また、共同相続人の一人が遺産分割協議に従い他の相続人に対し代償としての金銭を交付して相続財産を自己の所有にした場合は、結局、この者が相続財産を相続開始の時に単独相続したことになります(民法第909条本文参照)。そうすると当該相続財産は、他の相続人である共有者からその共有持分の譲渡を受けてこれを取得したことになるものではありません。そうすると、当該相続財産は、相続によって取得した財産に該当するものというべきです(平成6913日最高裁判所第三小法廷判決参照)。

このような観点からすると、代償分割における個々の譲渡行為について譲渡所得課税をするのではなく、国税庁は相続税として処理する運用を採用することとしました。

そして、国税庁の運用として、代償財産の交付をした者は、相続又は遺贈により取得した財産の価額から交付した代償財産の額を控除した価額を相続税の課税価格に算入します。他方、代償財産を取得した者は、取得した価額を相続税の課税価格に算入します。

代償分割により給付される財産と相続財産(積極財産)の関係について

裁判所は、相続財産のうち積極財産(プラスの財産のこと)よりも高額の代償金を支給したケースにおいて、代償債務のうち、遺産分割において取得した積極財産の額を超える部分は、新たに経済的利益を無償にて移転するものというべきであり、積極財産の額を超える部分に相当する代償債権の額は、贈与により取得したものというべきである旨の判示をしました(平成11225日東京地方裁判所判決参照)。

この裁判例は、代償分割が相続財産のうち特定の積極財産を取得したのと引換えに本取得できた割合に対応する財産額を支給することによって、相続財産の範囲で清算が行われているので遺産分割の方法の一つとされているという代償分割の趣旨に沿った判決といえ、合理性が認められます。したがって、この裁判例の判示からすると、支給する代償金は、相続財産の積極財産の額を超えない範囲である必要があります。

生命保険金と相続財産・相続税等

生命保険金と相続財産

生命保険金は保険契約者と被保険者との間の生命保険契約に基づき定められた保険金受取人に対し支払われます。そうすると、生命保険金は、相続を契機とするものの、相続により取得できるものではなく、あくまでも保険契約により取得できるものなのです。したがって、生命保険金は、相続財産ではありません。

最高裁判所の判例においても、「保険金受取請求権は、保険効力の発生(相続開始)と同時に保険金受取人である相続人の固有財産となり、被保険者(被相続人)の遺産から離脱しているものといわなければならない。」と判示されています(昭和40年2月2日最高裁判所第三小法廷判決)。

生命保険金と相続税・贈与税

上記のとおり、生命保険金は、相続財産ではありません。しかしながら、相続税・贈与税においては、生命保険金が相続の開始により取得できるものであるという実態があります。

また相続財産から生命保険金に財産の蓄積をシフトすることで相続財産を故意に低減させて相続税の回避に用いられている実情があります。これらの事情を考慮して、生命保険金をみなし相続財産・みなし贈与財産として相続税・贈与税の課税価格に算入することとしています(ただし、取得した生命保険金額が、法定相続人の数×500万円までの金額であれば相続税は非課税です)。

贈与税がかからない生命保険金を用いた代償分割の要件

上記の代償分割の考え方や生命保険金の考え方からすると、生命保険金を利用した代償分割を行い、贈与税がかからないためには

要件 代償金を支払う者が相続財産を取得していること

要件 支給される代償金の額が、相続財産の積極財産の額を超えないこと

のいずれも満たす必要があるといえるでしょう。

代償分割と贈与税の事例

事例1:生命保険金と相続財産の両方を取得しているケース

被相続人甲には相続人A,Bがいます(いずれも実子)。Aは、甲が保険料支払者であり、かつ契約者である甲の生命保険契約の保険金受取人です(保険金額は3,000万円)。Aは、その保険金を受領後、唯一の相続財産である宅地X(相続税評価額3,000万円)を相続により取得する代わりに、Bに対し1,500万円をその保険金から支払う遺産分割協議をしました。このBに対し支払った1,500万円は贈与税の対象になるでしょうか?


上記のとおり代償分割とは、相続人などのうち相続又は包括遺贈により財産を取得した者がその代償として他の相続人に対し財産を供与することをいいます。


Aは、相続財産である宅地Xを全部取得しています(要件)。

そして、Aは、宅地Xの相続税評価額は3,000万円であるのに対し、ABに対し代償金として支給した額は、1,500万円であることからすると、支給した代償金の額は相続財産の積極財産の額を超えていません(要件)。


したがって、この1,500万円に贈与税がかかることはありません。

事例2:代償金が相続財産を超えているケース

事例①で、Aが受領した保険金額が12,000万円であり、Aが宅地X(相続税評価額3,000万円)を取得する代わりにBに対し6,000万円を支給していた場合は、贈与税が課税されるでしょうか?


この場合、Aは相続財産である宅地Xを取得してはいます(要件)。

しかしながら、Aが取得した相続財産である宅地Xの相続税評価額は3,000万円であるのに対し、ABに支給した代償金の額は、6,000万円であることから、支給した代償金の額が相続財産のうち積極財産を超えています。


したがって、超えている部分(代償金の額6,000万円-宅地Xの相続税評価額3,000万円=3,000万円)については単にAからBへの贈与であるとみなされ、Bに贈与税が課税されます。

事例3:生命保険金以外、相続財産を取得していないケース

被相続人乙には、3人の相続人D,E,Fがいます(いずれも実子)。Dは、乙が保険料支払者であり契約者である生命保険契約の保険金受取人です(保険金額は6,000万円)。Dは、乙の相続開始により当該保険金を受領しました(Dはこれ以外は、乙の財産を相続又は遺贈により取得していません)。他方、遺産分割協議において、Dは、保険金を全額受領する代わりに、E及びFに対し各500万円を支払う内容の協議が成立しました。このE及びFに対し、各500万円(合計1,000万円)は贈与税の対象になるでしょうか?


Dは、生命保険金を受領していますが、そのほかの乙の相続財産は取得していません。代償分割とは、共同相続人等のうち一人又は数人が相続等により取得した財産の現物を取得していることを前提にしていることからすると、乙の相続財産を取得していないDが、E及びFに金銭を供与したとしても、それは、相続財産の取得の代償ではなくて、相続財産ではない生命保険金の取得の代償ともいえるものであって、D,E,F間の金銭のやり取りは代償分割ではありません。


したがって、単にDE及びFに金銭を贈与したものとみなされ、E及びFには贈与税が課されます。

まとめ

事例1の(1)が代償分割として代償金に贈与税が賦課されない事案でした。しかしながら、事例1の(2)は代償金の額が相続財産の積極財産の額を超えていた点において贈与税が課税される事案となりました(要件を満たしていない事案)。


また事例2は、代償金を支給しているDが相続財産を取得しておらず、贈与税が課税される事案となりました(要件を満たしていない事案)。

相続税額の早見表

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