相続放棄とは? 遺産相続を辞退する相続人の手続き

相続放棄とは「相続人にならない」ことを意味し、相続するはずのプラスの財産も、マイナスの財産も一切受け取らないということを言います。

多額の借金がある場合などに検討されますが、一度放棄をすると取り消しができないので注意が必要です。

この相続放棄をするためには①被相続人の財産を調査、②添付資料の収集・申述書の作成、③家庭裁判所からの照会書の記載・提出という手続きが必要になります。財産を漏れなく調査すること、添付資料を集めることにはある程度まとまった時間が必要になりますので専門家に依頼することも検討しましょう。

相続放棄とは「相続人にならない」こと

相続放棄」を簡単に言うと「相続によって取得する財産を一切受け取らないこと」です。 しかし実際はそれだけではなく、民法第939条では「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」とされています。

つまり相続放棄には財産を受け取らないという意味だけでなく、「相続人から除外される」という意味もあります。

なぜ相続放棄をするのか?

なぜ遺産を受け継ぐ権利を放棄する必要があるのか?

相続財産にはマイナスのものもある

「相続財産」の中には「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。

プラスの財産

マイナスの財産

土地・建物

借金

不動産上の権利

買掛金

預貯金

手形債務

有価証券

未払いの税金

売掛金

未払いの医療費

貸付金

未払いの利息

未収金

預り敷金

車や家財

預り保証金

書画・骨董品、貴金属

損害保証金


この被相続人が残したマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合に相続人は「相続放棄」を検討する必要が出てきます。


プラスの財産 < マイナスの財産  相続放棄を検討

債務以外の相続放棄の検討要因

「マイナスの財産がプラスの財産を上回る」ということ以外にも相続放棄を検討するケースがいくつかあります。

相続放棄をすることにより相続人同士の争いを未然に防ぐ

相続放棄をする人の中には相続人同士での争いを避けるため、またはそのようなわずらわしさを避けるために相続を放棄するケースがあります。一旦相続放棄をしてしまえば遺産分割協議にも参加する必要はありませんし、相続人同士の争いに巻き込まれるようなこともなくなります。

土地が田舎にあるため相続放棄する

相続する土地の活用が難しく不便な田舎にあるということから相続放棄をするというケースもあります。相続人が都会に住んでいて、相続する土地が田舎にあるような場合、その土地を相続することにより固定資産税や管理費用だけがかさみ相続してもメリットがなく実質「マイナスの財産」であるため相続放棄が検討されます。

相続放棄の期限は3カ月以内

相続放棄の期限は「相続を知った日から3カ月」ですので、それまでに相続放棄の手続きを完了しなければなりません。

相続放棄が間に合わない場合は期間延長も可能

相続放棄の期限は3カ月ですが、相続を知った日から財産調査を開始しても判断に十分な資料が集まらず相続放棄が間に合わないというケースもあります。そのような場合には「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」を家庭裁判所に提出することによりその期間を伸ばすことができます。

※「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」は裁判所のホームページでダウンロードすることができます。

相続放棄をする際の注意点

相続放棄をすると取り消しができない

相続放棄を一旦すると(詐欺や脅迫などの理由により相続放棄をした場合は例外として)基本的には相続放棄の取り消しができません。

相続放棄で相続順位も変わる

相続放棄をすると「相続人から除外される」ため、相続順位も変わってくるので注意が必要です。

例えば相続人に配偶者と子がいる場合、被相続人(亡くなった方)に多額の債務があるなどの理由から配偶者、子供が所定の手続きにより「相続放棄」をすると、この配偶者と子供は「相続人から除外」されます。

つまり配偶者と子供は相続人としてカウントされないため、被相続人の第二順位の相続人である被相続人の「両親」が相続人となり債務を引き継ぐことになってしまうのです。

 

被相続人の債務を完全に放棄するためには配偶者、子供、両親、兄弟全員が相続放棄をする必要があります。

相続放棄をした場合でも受け取れるものもある

相続放棄をした場合でも受け取れるものもあります!

「死亡保険金」や「国民健康保険」「健康保険組合等からの葬祭費・埋葬料等」「遺族年金」「死亡一時金」「未支給年金」などは相続放棄をしていても受け取ることができます。

相続放棄までの手続きと流れ:①相続財産の調査

相続放棄をするためにまずすべきことは財産の調査です。

相続放棄の検討:プラスの財産を調査する

プラスの財産を調査するために以下のことを行います。


預金関係

•被相続人の全ての通帳を確認

•取引のある銀行へ残高証明書、取引明細書の請求

•通帳への入出金からその他の資産を調査


不動産関係

•固定資産税の通知書を確認

•登記識別情報or登記済み権利書を確認

•名寄帳・固定資産評価証明書を役所で取り寄せる

•登記簿謄本を法務局で取り寄せる


有価証券

•有価証券の証券がないか確認

•証券会社や信託会社で取引残高明細書を取得する

相続放棄の検討:マイナスの財産を調査する

次にマイナスの財産の調査です。以下の事柄をひとつずつ確認していきましょう。

•催促状、催告状などの郵便物

•口座引き落としとなっている定期的な支払い

•不動産の登記事項証明書から抵当権や根抵当権、質権などが設定されていないか

•車検証から自動車ローンが組まれていないか

個人信用情報の開示請求によりマイナスの財産を確認

マイナスの財産の把握が難しい場合には個人信用情報の開示請求をして負債を確認することができます。現在3つの信用情報機関があり、これらの情報機関に個人信用情報の開示請求をすることができます。


個人信用情報開示請求先

略称

正式名称

JICC

株式会社日本信用情報機構

CIC

株式会社シー・アイ・シー

JBA

全国銀行個人信用情報センター

相続放棄までの手続きと流れ:②添付資料収集・申述書の作成

プラスの財産とマイナスの財産を確認し、いざ相続放棄をすることになれば相続放棄に必要な資料の収集を開始します。

相続放棄のために事前に準備する資料

相続放棄をするためには以下の資料が必ず必要になります。それぞれ「誰が」相続放棄をするかによって準備資料が異なりますので注意が必要です。

配偶者の場合

•被相続人の住民票除票又は戸籍附票

•申述人(放棄する方)の戸籍謄本

•被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

子又はその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合

•被相続人の住民票除票又は戸籍附票

•申述人(放棄する方)の戸籍謄本

•被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

•申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合

•被相続人の住民票除票又は戸籍附票

•申述人(放棄する方)の戸籍謄本

•被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

•被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

•被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいらっしゃる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合

•被相続人の住民票除票又は戸籍附票

•申述人(放棄する方)の戸籍謄本

•被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

•被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

•被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

•申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

※先順位相続人から提出済みの資料に関しては添付不要となります。

相続放棄に必要な資料の入手先

それぞれ相続放棄に必要な資料とその入手先です。

相続放棄に必要な資料

入手先

相続放棄の申述書

裁判所のホームページでダウンロード

被相続人の住民票除票

被相続人の役所

申述人(放棄する方)の戸籍謄本

申述人の本籍地の役所またはマイナンバーカードがあればコンビニ

被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

被相続人の本籍地の役所

出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

被相続人の本籍地の役所から遡り入手していく

相続放棄までの手続きと流れ:③裁判所からの照会

添付資料も整い「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出すると通常1~週間ほどで「照会書(回答書)」というものが家庭裁判所からが届きます。この照会書にはいくつかの質問が書いてありますので、それに回答をして裁判所にまた返送します。

照会書での質問事項

照会書ではこのようなことが聞かれます。基本的にはありのまま回答すれば大丈夫です。

•相続放棄の申述行われていることを知っているかどうか

•被相続人の死亡を知った日はいつか

•相続財産の存在を知った時期

•相続放棄をする理由

•被相続人の生前の生活状況や経済状況等

•被相続人との生前の連絡状況

•相続を知った日から3か月の期間内に、相続財産についてどのような調査をしたか

•相続放棄の申述は、あなたの真意によるものか

これらの質問に対しての回答の記入が終わりましたら照会書を裁判所に返送します。

相続放棄申述書受理通知の受理によって相続放棄完了

家庭裁判所の方で相続放棄が許可されれば「相続放棄申述受理通知書」が届きます。この相続放棄申述受理通知書が届くのにも通常1~2週間程度かかります。

そしてこの相続放棄申述受理通知書が届けば正式に相続放棄の手続きが完了したことになります。

※相続放棄申述受理通知書に関して再交付は一切されないので注意が必要です。

もし必要な場合は「相続放棄受理証明書」を150円の手数料を支払い裁判所に申請し発行することができます。

この「相続放棄申述受理通知書」や「相続放棄受理証明書」は他の相続人や債権者に対して自分が相続放棄したということの証明となりますので大切に保管しておきましょう。

まとめ:相続放棄までの流れ

以上相続放棄をするために相続人がする手続きと流れをご紹介しました。相続放棄をしたい場合に相続人がすべきことは大きく分けると以下の3つです。

1.被相続人の財産を調査

2.添付資料の収集・申述書の作成

3.家庭裁判所からの照会書の記載・提出


延長の申請をしなければ基本的に相続放棄の期限は「3ヶ月」となっています。

期間も定められていますので相続が開始したらまず早めに「財産調査」に取りかかることをお勧めします。

もし役所や法務局に行って必要な資料を収集するための時間確保が難しかったり、資料に不備や漏れがないか心配な方は早めに専門家にご相談することをお勧めします。

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