配偶者居住権とは?

居住地の名義人であった配偶者が亡くなった時、今まで住んでいた家を相続により失ってしまう可能性があります。

そんな事態を防ぐために、「配偶者居住権」が新設されました。

 配偶者居住権制度の施行日は202041日で、施行後に開始した相続に適用され、相続税の課税対象となります。評価方法も定められました。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、

相続人の配偶者が、被相続人所有の自宅に住んでいた場合は、相続開始後にその自宅に住んだり、収益を得るために使用したりすることができる権利

相続があった場合、相続人の間で遺産を分割します。その際、遺産に占める自宅の価値が高いと、そこに住んでいた配偶者は自宅を売却しなければならなかったり、自宅以外の財産を取得できなかったりするケースがありました。

 

「配偶者居住権」とはこれを解消するための制度です。


所有権はほかの相続人が取得することができますので、配偶者居住権を設定すると一つの自宅に利用権と所有権の二つの権利が存在することになります。ただし、被相続人と配偶者ではない者とが建物を共有していた場合、配偶者居住権の設定はできません(民法第1028条)。 


配偶者居住権には、「配偶者長期居住権」と「配偶者短期居住権」の2つがあり、単に「配偶者居住権」という場合は、長期のものを指します。

遺産分割はどうなる

同じ条件、預金1,000万円と評価額3,000万円の自宅を遺して死亡した父の配偶者と子の相続の場合で、現行制度と配偶者居住権での比較をしてみます。

【現行制度の場合】

 

自宅:3,000万円、預金:1,000万円

 

現行制度では、配偶者・子どもの法定相続分は、それぞれ2,000万円です。 

  3,000万円+1,000万円)× 1/2

 

しかし、預金が1,000万円しかないため、遺産を平等に分けるためには、配偶者は今まで住んでいた自宅を売却し現金化するか、自身の現預金を代償金として支払わなくてはなりませんでした。

そこで、平成30年度の民法改正により、配偶者が自宅に居住する権利不動産を所有する権利2つに分けて、自宅を相続することができるようになりました。

 

この制度で上記の例を法定相続に従って遺産分割をすると以下の通りになります。

 

【配偶者居住権設定の場合】


・配偶者

  配偶者居住権:1,500万円、預金:500万円

 

・子 

 居住権付所有権:1,500万円、預金:500万円

 

法定相続分は、現行制度と同様に配偶者・子とも2,000万円ですが、配偶者は、配偶者居住権を取得して、自宅に居住したまま現金500万円を手にすることができ、子は、配偶者の居住権が付いた所有権を手にしたうえで、現金500万円を取得するという考え方です。

配偶者居住権の取得要件

配偶者が配偶者居住権を取得できる要件は、次のいずれかに該当する場合です。

 

1.相続人間で合意し、遺産分割によって配偶者居住権を取得する場合

2.遺言など、遺贈により配偶者居住権を取得する場合

3.家庭裁判所による遺産分割の審判により、配偶者居住権を取得する場合


遺産分割と遺贈については、通常の相続と同じですが、遺産分割の審判を受けるためには、さらにその要件があります。

配偶者居住権の注意点

配偶者居住権には次の注意点があります。

存続期間を定めることができる

配偶者居住権は、相続開始の配偶者の生活を守るために創設された権利であるため、終身を原則としています。しかし、遺産分割協議や審判などで話がまとまりやすくするため、存続期間を定めることも可能です。

配偶者居住権は登記することができる

配偶者居住権は、不動産の登記簿に登記することができます(所有者に請求)。配偶者居住権を登記することで、第三者とのトラブルを避けることができるなどの効果を得られます。

配偶者居住権は譲渡禁止

配偶者居住権を、別の人に譲渡することはできません。

配偶者が必要費を負担しなければならない

配偶者居住権を取得した配偶者は、居住のために通常かかる修繕費などの費用を自己負担する必要があります。

配偶者は収益を得られる

配偶者居住権では、そこに住むだけでなく、不動産を使用して収益を得ることも可能です。

配偶者短期居住権とは?

配偶者居住権が終身を原則としているのに対して、配偶者短期居住権とは、『暫定的に無償で建物を使用する権利』


これまでも、判例が使用貸借の合意を推定することによって、配偶者の保護が図られていましたが、遺言で第三者に居住建物が遺贈された場合や、被相続人が配偶者が居住し続けることに反対の意思表示をしていた場合など、配偶者の保護に欠ける点がありました。

 

しかし、このような場合でも、明文化されることによって配偶者は、無償で一定期間これまで住んでいた住居に住み続けることができるようになりました。

配偶者短期居住権の取得要件

配偶者短期居住権の取得要件は、以下の通りです。

 

・配偶者が相続開始時に住んでいる自宅が被相続人名義の居住用不動産

 

夫が死亡し、妻が住んでいる自宅が夫名義であれば、妻は配偶者短期居住権を取得するということです。

 

この場合は、すべての配偶者に配偶者短期居住権が認められます。

配偶者短期居住権の存続期間

自宅の取得者がどのように決まるのかによって、配偶者短期居住権が認められる存続期間が次のように異なります。

遺産分割をする場合

次のいずれか遅い日

 

・遺産分割により所有者が確定した日(遺産分割協議成立日)

・相続開始日から6か月を経過する日

遺産分割以外の場合

その建物の取得者が、配偶者短期居住権の消滅の申し入れをした日から6か月を経過する日


被相続人の配偶者が住んでいる住居を第三者が遺言により遺贈された場合、配偶者は、第三者から配偶者居住権の消滅の申し入れを受けた日から6ヶ月を経過するまで、自宅に住み続けることができることになります。

配偶者短期居住権の注意点

配偶者短期居住権には次の注意点があります。

配偶者短期居住権は譲渡禁止

配偶者短期居住権を、別の人に譲渡することはできません。

配偶者が必要費を負担しなければならない

配偶者短期居住権を取得した場合は、居住のために通常かかる費用は自己負担する必要があります。

配偶者は収益を得られない

配偶者短期居住権では、不動産を使用して収益を得ることはできません。

配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い


配偶者短期居住権

配偶者居住権

内  容

残された配偶者が、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間は、自宅に無償で済み続けることができる権利

配偶者が遺産分割や遺贈により居住している住居に終身又は一定期間住み続けることができる権利

※店舗併用住宅や賃貸併用住宅にも設定できる

資  格

被保険者の配偶者であること(内縁を含まず)被保険者の配偶者であること(内縁を含まず)

居住建物の所有権

被相続人が所有権または共有持分を有していたこと被相続人が所有権を有し、配偶者以外の者と共有していなかったこと

相続開始時の状態

配偶者がその住居に無償で居住している配偶者がその住居に無償で居住している

手  続

自然発生遺産分割・遺贈(注)

存続期間

最低6か月、遺産分割が成立するまで有期又は終身、配偶者がなくなると消滅

登  記

できないできる(必須ではないが、第三者に対抗するには必要)

相  続  税

課税財産にならない(財産評価無し)課税財産になる(財産価値あり)
(注)遺贈の場合、令和2年4月1日以降に、配偶者居住権を遺贈する旨が記述された遺言書の作成が行われていること、又は同日以後に作成済みの遺言書に、新たに配偶者居住権を遺贈する旨、が書き加えられていること、が必要です。また「配偶者居住権を相続させる」と記述した場合は、配偶者居住権を取得できないと考えられます。

配偶者居住権は節税になる?

配偶者居住権には、財産価値(税制上の評価)が認められています。自宅の相続税評価額が高額であったり、配偶者の年齢が若いような場合に、配偶者居住権を設定することで、将来の相続税(二次相続)の負担が軽減される可能性があります。

配偶者居住権の消滅

夫の相続において妻が配偶者居住権を設定した場合、配偶者居住権は相続税の課税対象になります。ただし、将来、妻がなくなると配偶者居住権は消滅するため、妻の相続税申告においては課税財産になりません。 


したがって、夫の相続時に、子が自宅の所有権を相続した場合、配偶者居住権を控除した価値でその所有権を取得することになります。父の相続と後の母の相続を考えると、配偶者居住権を設定しない場合と比べて、母の相続時には配偶者居住権分の評価額だけ相続税の負担を軽減する効果があります。


必ずしも配偶者居住権が節税になるというわけでもありません。

子に持ち家が有るか無いか、妻自身の保有財産の額がいくらあるのかによっても、判断が分かれます。

小規模宅地の特例の適用には注意

配偶者居住権を設定した場合、配偶者が相続する敷地使用権については、居住用宅地に係る小規模宅地の特例の適用が可能ですが、敷地の所有権については、相続する親族が適用対象者になるかどうか別途の判断が必要になります。

その親族が特例の適用対象者にならないケースでは、配偶者居住権を設定せずに自宅そのものを配偶者が相続する場合よりも、相続税の総額が増加すると考えられます。

将来、放棄があると贈与税が発生する

残された配偶者が、老人ホームなどの介護施設に入所しなければならなくなり、自宅を売却した代金を入所資金とするといったケースが生じることが予想されます。

母が、配偶者居住権を設定し、子が所有権を取得したケースでは、配偶者居住権を放棄によって消滅させてから、自宅を売却することになり、この時点において、母から子への配偶者居住権に係る贈与が認定され、贈与税が発生すると考えられます。

まとめ:制度が複雑なので専門家に相談を

最後に、注意点を箇条書きにまとめました。

 

・配偶者居住権は譲渡できないので、ライフステージが変わった際にも売却できない

・遺言の書き方は「相続させる」ではなく「遺贈する」

・自宅の所有者と合意して配偶者居住権を消滅させた場合、所有者に「みなし贈与税」がかかる可能性がある

・自宅の「所有権」を誰にゆだねるのかは慎重に考える

 

相続の際、その居住地に住み続けることができる「配偶者居住権」について、解説しましたが、概念自体は、分かりやすいものです。

 

しかし、相続税の評価はまた別の話です。

かなり複雑な計算が必要となるので、相続税に強い税理士に相談することをお勧めします。

相続税額の早見表

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